「 ねぇ。おじちゃん 」
姉夫婦の三歳になる娘に、生まれて初めてそう呼ばれたとき
私は軽い眩暈を覚える。どうやら情けないことに
その言葉に想像以上のショックを受けたようだ。
自分では、まだまだお兄さんのつもりだったのだが
小さな子供からすれば立派なおじさん ・ ・ ・
この受け入れがたい現実を容赦なく私の元へと運んでくる姪。
そんな彼女が日曜日のお昼時に
喫茶店にて私の目の前にちょこんと座っている。
・ ・ ・
ただいま姉夫婦たちは友人の結婚式に出席中
普段ならば喜んで初孫の面倒を引き受ける祖父母たちは
夫側は揃って海外旅行中につき留守
妻側 ・ ・ ・ つまりウチの両親は揃って詩吟の会へとお出かけ
その他の友人知人たちもみな都合が悪く
仕方なしに男ヤモメの私に白羽の矢がたつ
しかし生憎と私には小さな女の子の扱い方がさっぱり分からない。
試しに 「 チョコでも食うか? 」 と声をかけたら
「 太るからいい 」 と無愛想に断られた。
・ ・ ・
いっこうに縮まらない姪と私の距離
二人の間に漂う気まずい沈黙
その空気に耐えかねた私は、ちょうど昼時になったのを幸いに
彼女を連れて近所の喫茶店へと出かけることにする。
昼飯時で賑わう店内の窓際の席に陣取った私たち
とりあえず姪には 「 なんでも好きなモノを頼め 」 と言って
メニューを渡し、私は早々にホットコーヒーのブラックを注文する。
だがそこで彼女が不思議そうな表情を浮かべて
私の顔をじっと見つめていることに気づいた。
「 どうした? 注文するモノが決まったのか 」
「 ううん。違うの 」
「 ならトイレか? トイレなら店の奥に 」
「 違うわ。そうじゃないの。ねぇ。おじちゃん
コーヒーってブラック以外にもあるの? 」
「 ああ。他にも色々あるけれど 」
アメリカン、エスプレッソ、ラテ、カプチーノ ・ ・ ・
ざっと思いつく限りでも、そこそこのコーヒーの種類が私の脳裏に浮かぶ
だが私の頭の中の貧弱なコーヒー名鑑は
姪の次の言葉によって木っ端微塵に粉砕された。
「 そうなんだぁ。ねぇ。それって何色なの? 赤それとも青 」
・ ・ ・
どうやら彼女はコーヒーのブラックというものを
コーヒーの色を表していると勘違いして
まるでクレヨンのように他の色もあるのかと、私に訊ねたようだ。
姪のこの可愛い勘違いを聞かされたとき
私の中で初めて萌えなる感情が芽生えた。
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